自然を感じられる部屋を見つける方法

リモートワークが社会に浸透し、私たちのライフスタイルは大きく変化しました。通勤時間がなくなり、家で過ごす時間が格段に増えたという方も多いのではないでしょうか。便利で快適なはずの我が家も、一日中閉じこもっていると、四方の壁に圧迫されるような息苦しさを感じてしまう。ふと、窓の外に広がる生命力あふれる緑や、心地よい風の音、鳥のさえずりを無性に恋しく思う瞬間はありませんか。

私自身も、コンクリートに囲まれた都会での生活が続くと、心身のバランスが崩れがちになるのを何度も経験してきました。その経験から意識的に「自然」を暮らしに取り入れる部屋探しを実践し、その効果の大きさを肌で感じています。しかし、「自然を感じられる部屋」と一言で言っても、それは都心を遠く離れた郊外の一軒家だけを指すわけではありません。

都会の真ん中でも、探し方や部屋選びの視点を少し変えるだけで、日々の暮らしの中で深く呼吸ができるような、心安らぐ空間を見つけることは十分に可能です。これから、物件探しの具体的なテクニックから、ガーデニングが楽しめる部屋の厳選条件、そして室内にいながら自然の温もりを感じられる内装の秘密まで、あなたの理想を叶えるための具体的な方法を、一つひとつ丁寧に、そして深く掘り下げて解説していきます。

目次

  1. 公園や緑地の近くにある物件の探し方
  2. ベランダでガーデニングを楽しめる部屋選び
  3. 自然素材を使用した内装の物件とは?
  4. 静かな環境で暮らすためのエリア選定
  5. 自然豊かな物件でリラックスする暮らし

 

1. 公園や緑地の近くにある物件の探し方

暮らしに自然を取り入れる最も手軽で効果的な方法は、公園や緑地のすぐそばに住むことです。朝の光を浴びながらの散歩、仕事の合間のちょっとしたリフレッシュ、週末には手作りのお弁当を広げてピクニック。思い立った時にすぐに緑に触れられる環境は、私たちのウェルビーイング(心身ともに健康で、社会的にも満たされた状態)に計り知れないほどの好影響を与えてくれます。

では、どうすれば効率的に、そして確実に理想の「パークサイド物件」を見つけられるのでしょうか。その具体的なステップと、プロならではの視点をご紹介します。

ステップ1:地図を「緑のキャンバス」として捉える

多くの人は、まず不動産情報サイトで駅名や家賃を入力することから部屋探しを始めますが、自然を重視するなら、そのアプローチを少し変えてみましょう。

最初に開くべきは、地図アプリです。住みたいと考えているエリアの地図を広げ、まずは公園や緑地、河川敷など、緑色で表示されているエリアに目星をつけます。この時、ただ場所を確認するだけでなく、「航空写真モード」に切り替えて、実際の緑の量や木々の密集度を確認するのがプロの技です。地図上では同じ大きさの公園でも、片方は広場が中心で、もう片方は深い森のようになっている、といった違いが一目瞭然になります。

さらに、「ストリートビュー」機能を活用すれば、その場に行かなくても公園の雰囲気や周辺の街並みを仮想体験できます。この段階で、自分が心地よいと感じる「緑の質」をいくつかリストアップしておくのです。この一手間が、後の物件探しの精度を飛躍的に高めます。

ステップ2:検索キーワードを戦略的に使い分ける

目星をつけたエリアで物件を探す際、検索窓に入れるキーワードが成否を分けます。

  • 基本的なキーワード:「公園隣接」「リバービュー」「パークサイド」「緑道沿い」
  • より具体的なキーワード:「借景」「眺望良好」「自然豊か」「〇〇公園ビュー」

これらのキーワードを複数組み合わせたり、入れ替えたりしながら、根気よく検索することが重要です。不動産会社の担当者が、物件の魅力を伝えるためにどんな言葉を使っているかを想像しながら、検索の網を広げていきましょう。

ステップ3:公園の「種類」と特性を理解する

公園と一括りに言っても、その規模や性格によって、暮らしへの影響は大きく異なります。

  • 大規模な総合公園
    • メリット:広大な敷地、充実した施設(ランニングコース、ドッグラン、カフェなど)、季節ごとのイベントが楽しめる。
    • デメリット:週末や祝日は多くの人で賑わうため、静けさを求めるには不向きな場合も。物件の希少性が高く、家賃相場も高くなる傾向があります。
  • 地域密着の小さな公園(児童公園など)
    • メリット:静かで落ち着いた雰囲気。地域住民のコミュニティが感じられる。
    • デメリット:遊具で遊ぶ子供たちの声が、時間帯によっては気になる可能性も。
  • 河川敷
    • メリット:遮るものがない圧倒的な開放感。ランニングやサイクリング、犬の散歩などに最適。
    • デメリット:川沿いは風が強いことが多く、夏場は虫の問題が発生しやすい。増水時のリスクも考慮が必要です。

自分が公園に何を求めているのか(静けさ、アクティビティ、利便性など)を明確にすることで、選ぶべき公園の種類も見えてきます。

ステップ4:内見で「五感」を使ってチェックする

理想の物件が見つかったら、いよいよ内見です。ここで確認すべきは、間取りや設備だけではありません。

  • 眺望の確認「物件が公園の近くにあること」と「部屋の窓から緑が見えること」は全くの別問題です。リビングや寝室など、自分が一番長く過ごす部屋の窓からの眺めを、必ず自分の目で確認してください。目の前に緑が広がる「借景」は、お金には換えがたい価値があります。
  • 音の確認:窓を閉めた状態と、開けた状態で、外からどんな音が聞こえるかをチェックします。公園で遊ぶ子供の声、スポーツの声援、イベントの音楽など、許容できる範囲かどうかを判断しましょう。
  • 季節の変化を想像する:内見したのが冬であれば、夏には目の前の木々が青々と生い茂り、日当たりや風通しが変わる可能性があります。逆に夏であれば、冬には葉が落ちて、想像していたより景色が寂しくなるかもしれません。季節ごとの変化を想像し、一年を通して快適に過ごせるかを考える視点が重要です。

 

※関連記事:おしゃれな賃貸部屋を探すためのポイント

 

2. ベランダでガーデニングを楽しめる部屋選び

「外に探しに行くだけでなく、自分の手で小さな自然を育てたい」。そんな方には、ベランダやバルコニーでのガーデニングが最高の癒やしとなるでしょう。ミニトマトやハーブを育てて食卓に彩りを加えたり、季節の花を飾ってその移ろいを楽しんだり。ベランダという小さな空間が、暮らしを豊かにする無限の可能性を秘めたキャンバスになります。

ただし、ガーデニングを心から楽しむためには、部屋選びの段階でいくつかクリアすべき条件があります。デザインや間取りだけでなく、「育てる」という視点で物件を見ていきましょう。

必須条件1:生命の源、「日当たり」

植物にとって日光は生命線です。どんなに広いベランダがあっても、日当たりが悪ければ育てられる植物は限られてしまいます。

  • 方角のチェック:一般的に、午前中から柔らかい光が長く続く「南向き」や「東向き」のベランダがガーデニングには最適とされています。西向きは午後の日差しが強すぎ、植物によっては葉焼けを起こすことがあるため注意が必要です。
  • 周辺環境の確認:たとえ南向きでも、目の前に高い建物があれば、日照時間は大きく削られてしまいます。内見時には、太陽の動きを想像しながら、一日を通してどのくらい日が当たるかをシミュレーションすることが不可欠です。

必須条件2:作業効率を左右する「空間と設備」

ガーデニングは、意外と多くの道具とスペースを必要とします。

  • 広さと奥行き:プランターを置くだけでなく、自分が座って植え替え作業をしたり、じょうろや土、肥料などを一時的に置いたりするスペースを確保できるか。ベランダの奥行きが十分にあるか、室外機の位置が作業の邪魔にならないか、といった物理的な広さを確認しましょう。
  • 水道(スロップシンク)の有無:これは、ガーデニングの快適さを劇的に変える設備です。ベランダに「スロップシンク」と呼ばれる深めの流しと蛇口があれば、水やりはもちろん、汚れた道具を洗ったり、土で汚れた手を洗ったりするのに非常に便利です。これが無い場合、毎回キッチンや浴室から重い水を運ぶことになります。その労力は想像以上で、ガーデニングが長続きしない原因にもなりかねません。
  • 耐荷重と風通し:土や水を含んだプランターはかなりの重量になります。念のため、ベランダの耐荷重がどのくらいか確認しておくと安心です。また、風通しの良さも植物の健康を保つ上で重要な要素です。

最重要確認事項:「管理規約」

どんなに素晴らしいベランダがあっても、ルールを守らなければトラブルの原因になります。

  • ガーデニングの可否:マンションによっては、管理規約でベランダでのガーデニングを厳しく制限(大量の土の利用禁止など)あるいは全面的に禁止している場合があります。
  • 避難経路の確保:隣の部屋との間にある隔て板の前や、避難ハッチの上には、物を置くことが消防法で固く禁じられています。
  • 排水や落下物の配慮:水やりの際に下の階に水が漏れたり、強風でプランターが落下したりする事故を防ぐためのルールが定められていることも。

契約前に必ず管理規約に目を通し、「どこまで許容されているのか」を正確に把握することが、安心してガーデニングを楽しむための絶対条件です。

 

 

3. 自然素材を使用した内装の物件とは?

窓の外の自然だけでなく、部屋の中にいても木の温もりや土の質感を五感で感じられたら、暮らしはさらに心地よいものになります。それを叶えてくれるのが、「自然素材」をふんだんに使用した内装の物件です。化学物質を極力使わず、人にも環境にも優しいこれらの素材は、私たちの心と体を健やかに保つ手助けをしてくれます。

心地よさを生み出す、代表的な自然素材

  • 無垢材のフローリング
    • 特徴:合板フローリングとは異なり、一本の木から切り出した木材をそのまま使った床材です。素足で歩いた時の温かみのある感触、ほのかに香る木の匂い、年月と共に飴色に変化していく経年美は、無垢材ならではの最大の魅力です。
    • メリット:木が呼吸するように湿気を吸ったり吐いたりする「調湿作用」があり、室内の湿度を快適に保ってくれます。
    • デメリット:柔らかいため傷がつきやすく、水分に弱いという性質も。定期的なワックスがけなど、愛情をかけたメンテナンスが必要になりますが、それもまた味わいの一つです。
  • 珪藻土(けいそうど)や漆喰(しっくい)の壁
    • 特徴:植物性プランクトンの化石からなる珪藻土や、サンゴを主原料とする漆喰は、古くから日本の建築で用いられてきた伝統的な壁材です。
    • メリット:最大の特徴は、卓越した「調湿効果」。室内の湿度が高い時は湿気を吸い、乾燥している時は湿気を放出して、結露やカビの発生を抑制します。また、タバコやペットの匂いを吸着する消臭効果も期待できます。
    • デメリット:ビニールクロスと比べて汚れが落ちにくく、物をぶつけると欠けやすいという繊細さも。補修は可能ですが、専門的な知識が必要になる場合があります。

自然素材物件の見つけ方

これらの物件は、一般的な賃貸物件の中ではまだ少数派ですが、探し方にはコツがあります。

  • キーワード検索:「無垢フローリング」「自然素材」「漆喰壁」「リノベーション物件」「デザイナーズ物件」などのキーワードで検索すると、こだわりの物件が見つかりやすくなります。
  • 専門の不動産会社:最近では、リノベーション物件や自然素材を使った物件を専門に扱う不動産会社やウェブサイトも増えています。そうしたプラットフォームを活用するのも有効な手段です。

自然素材の家は、シックハウス症候群の原因となる化学物質のリスクを低減させるという健康面でのメリットも見逃せません。それは単なるデザインではなく、日々の暮らしの質そのものを高めるための、賢い投資と言えるでしょう。

 

4. 静かな環境で暮らすためのエリア選定

鳥のさえずりや風にそよぐ木の葉の音。そうした繊細な自然の音を楽しむためには、まず土台として「静けさ」という環境が不可欠です。絶え間なく続く車の走行音や雑踏の喧騒は、私たちの神経をすり減らし、せっかくの自然との繋がりを断ち切ってしまいます。

では、心からリラックスできる静かな環境は、どのように見つければ良いのでしょうか。

「用途地域」という法律上のヒント

少し専門的になりますが、都市計画法では、土地の使いみちによって「用途地域」が定められています。この中で、「第一種低層住居専用地域」に指定されているエリアは、建てられる建物の高さや種類に最も厳しい制限があるため、基本的に低層の戸建てやアパートが中心の、閑静な住宅街が形成されています。静かな環境を求めるなら、まずこのエリアを中心に探すのが最も確実な方法です。

騒音の種類と物件の防音性

静けさを考える上で、音の種類と、建物の構造についても理解を深めておきましょう。

  • 騒音の種類を分析する:自分がどんな音に敏感かを知ることも大切です。幹線道路のような「継続的な低い騒音」が苦手か、救急車のサイレンのような「突発的な高い騒音」が苦手か。それによって、避けるべき施設(幹線道路、病院、学校など)が見えてきます。
  • 建物の構造をチェックする:一般的に、木造 < 鉄骨造 < 鉄筋コンクリート(RC)造の順に防音性が高くなります。外からの音を遮断したいのであれば、RC造の物件が最も有利です。また、内見時には窓の性能もチェックしましょう。二重サッシ防音ガラスが採用されていれば、窓を閉めた際の静けさは格段に向上します。

究極の確認方法:自分の足と耳で確かめる

地図やデータだけでは分からない、その街の「本当の音」を知るためには、現地調査が欠かせません。

  • 時間帯と曜日を変えて、何度も歩く平日の昼間は静かでも、夜になると雰囲気が一変することは珍しくありません。通勤・通学ラッシュの朝、人通りが少なくなる夜、そして家族連れで賑わう休日の昼間と、最低でも3回はその街を歩いてみてください。
  • 天候を変えてみる:意外と見落としがちなのが雨の日のチェックです。屋根や窓に当たる雨音の響き方や、周辺道路の水はけの良し悪しなど、晴れた日には分からない情報が得られます。

静かな環境は、心の平穏に直結する重要な要素です。駅からの距離や利便性だけでなく、「音」というものさしを持ってエリアを選ぶことが、真にリラックスできる暮らしへの近道なのです。

 

※関連記事:アパート選びで見逃せない周辺環境

 

5. 自然豊かな物件でリラックスする暮らし

これまでお話ししてきたような視点で選び抜いた部屋での暮らしは、私たちの日常にどのような変化をもたらしてくれるのでしょうか。それは、単に「快適」という言葉だけでは表せない、心豊かな時間の連続です。

暮らしの中に生まれる、新しいリズムと喜び

  • 五感で感じる、季節の移ろい ベランダの蕾がほころび、春の訪れを知る。窓から入る風が涼やかになり、夏の到来を感じる。葉が鮮やかに色づき、秋の深まりを実感する。そして、凛とした空気に冬の訪れを知る。都会にいると忘れがちな季節の繊細な変化を、日々の暮らしの中で全身で感じられることは、心を豊かにする最高の贅沢です。
  • 新しい趣味や休日の過ごし方の発見 これまでは休日に都心へ出かけていた人も、近所の公園を散策したり、ベランダで育てた植物の手入れをしたりすることが、何よりの楽しみになるかもしれません。バードウォッチINGや写真、スケッチなど、自然を対象とした新しい趣味が始まるきっかけにもなります。
  • 心身の健康へのポジティブな影響 自然に触れることがストレスホルモンであるコルチゾールを減少させ、心拍数や血圧を安定させる効果があることは、多くの研究で証明されています。緑豊かな環境は、ただそこにいるだけで、私たちの心と体を健やかな状態へと静かに導いてくれる、最高のセラピストなのです。

注意点:自然との共存

もちろん、自然豊かな環境にはメリットばかりではありません。都心部に比べて虫が多くなったり、秋には落ち葉の掃除が必要になったり、場所によっては交通の便や商業施設の利便性が劣る場合もあります。こうした側面も理解した上で、自分にとってのメリットがデメリットを上回るかどうかを、冷静に判断することが大切です。

 

 

「暮らしの真ん中に、深呼吸を。」

「自然を感じられる部屋」を探す旅は、単なる物件探しではありません。それは、情報が溢れ、常に時間に追われる現代社会において、「自分にとっての本当の豊かさとは何か」を問い直し、自身のライフスタイルと深く向き合う大切なプロセスです。

今回ご紹介した方法が、あなたが理想の「サンクチュアリ」を見つけるための一助となれば、これほど嬉しいことはありません。そして、暮らしの真ん中で、いつでも深く、心地よい呼吸ができるような、そんな毎日を始めてみませんか。